うだ話12


     うだ話12  ない、無い

考古学では、遺物が出土したこと、遺構を検出したことを主に取り上げます。確認できる「もの」を対象としていますので、当たり前といえばそうなんですが、そこが一番のくせ者と考えています。以下、「ない、無い」ということをテーマにしてケーススタディ。


ケース1 遺構がない 単純編
トレンチ(1)やグリット(2)で確認調査(3)を行うと遺構などが発見できない例が良くあります。さ〜大変です。開発者にとっては「遺構がない=これ以上の発掘調査は必要ない」となるので「ほっ」と一息ですが、調査している私たちは、なぜ無いのか考えないといけません。地層の堆積や地山(じやま)(4)の状況など徹底的に検証して、遺跡内その地点にはなぜ遺構が無いのか考えます。

単純に原因を考えると、
  1.河川の氾濫等によってそれ以前の遺構が削られた。
  2.後の開発によってそれ以前の遺構が破壊された。
  3.もともとその地点には遺構がなかった。
大体この3つでしょうか。

1.は、遺跡が河川の氾濫原などに立地していれば、最も可能性が高い原因です。現状1、2級河川などが流れているなら大きな氾濫原がありますので、その微高地にある遺跡はこのパターンでしょうか?
2.は、一番可能性が高いのが、高度成長期の乱開発で、大きく土地が削られているパターンでしょうか?約1mの盛り土を除去したら、地山が現れたって!。
3.は、判断が難しいですね。1)、2)も元々無かった可能性も含まれますが、はじめから無かったという判断はなかなかできません。あるからって遺跡に登録してるのに・・・。遺跡の中で、遺構が無い部分が存在することを理解するのは大変です(5)。


ケース2 遺構が無い 通常編
ケース1では原因を単純に分解してみましたが、ここでは通常のあり方でみてみましょう。

私がフィールドにしている地域で一番多いパターンは、地山があって、その上層に3〜5層程度の中世から近世にかけての農地層が堆積している。地山上面には遺構が無いというものです。農地層ですから遺物は細片が少量含まれるだけで、地山に遺構がないので、遺跡内であっても原因者負担の調査対象とはなりません。

上層の農地層はその時期に農地だったと判断できるのですが、地山に遺構がないのはなぜか?周辺の調査例と比較し、その標高やその上面の状況から、上面にある農地が作られた時に大幅な掘削を受けて遺構が無くなったと理解するのが通常です。ただし、それが正解という証拠はどこにもありません。一遺跡だけでは推定にしかならないので、沢山の調査例を比較検討して、今はこの仮説でこの状況を理解しています。あと、上層の農地層に縄文土器、弥生土器、石器、須恵器、土師器などが含まれる場合は、中世以前の遺構を破壊している可能性がさらに高まります。

次に農地層の部分ですが、あることだけを考えると「中世から近世の農地が存在した」となりますが、上下の層で含まれる遺物の時期差が大きい場合など、その間に無くなってしまった遺構なり、農地などを考えなければなりません。遺物で200年ぐらいの差があると、複数時期を考えないといけないのですが、全くの手だてなし。上下の層に含まれる遺物から、何となく推定する程度です。また、本当はその間に他の時期のものが無く、遺物は混入しただけって可能性も。

このように、現地での発掘調査では、「ある」こと以上に「ない」ということを考えないと、調査した部分の成り立ち、変遷は理解できないのです。推定を多分に含んで。




考古学の研究、分析では、遺物がある、遺構がある、こんなところに分布しているなど、「ある」を基本に考えますが、現地調査では上記のように「ない」という部分の方が重要です。「ある」ということだけをつないで分析、研究することがいかに危険か?思いません?それとも、現地調査で「ない」を十分検討してるから、もうしなくてもいいのでしょうか?

私は常に「ない」を考えてしまうので、研究できません。「してない!」って?、確かに(..ゞ アセ

調査成果を地域史に位置付けるための分析はしてるつもりです。m(_ _)mペコ



(1)1.5x10mなどの細長い調査区。
(2)1.5x1.5mなどの四角い調査区。
(3)遺跡内で行う事前の試験発掘、部分発掘調査。遺跡の状態を確認するということで「確認調査」といっています。近畿地方では昔は試掘(試験掘)といってました。
(4)これ以上掘っても人間活動が確認できない地層を便宜上こう呼んでいます。
(5)集落内での広場って概念も使えますが、トレンチ調査などではちょっとそこまで考えることはできません。

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