うだ話36


     うだ話36  考古学研究50−4   2004/3

清家 章「隣の人は・・・」

考古学の本質とは

>考古学は多かれ少なかれ他分野の研究と関わりを持たざるを得ない宿命にある。

>鉄器研究・・・冶金学、製鉄、鉄製品製作の知識
>  刀剣の研究・・・刀鍛冶、研ぎ師の知識
>石器研究・・・地質学、鉱物学の研究の力を借りる
>土器研究・・・陶芸の知識
>  胎土の研究・・・土壌学、鉱物学の知識
>住居や集落などの遺構研究・・・建築学、環境学などの成果を多分に必要とする

>考古学は他分野の成果に依拠あるいは共同研究などの協力を本質的に必要とする学問

主だった研究項目について必要な知識についてまとめられ、「もの」を対象とする以上、様々な知識なしには何もできないことを示している。編年のもととなる型式学など、考古学で使用している理論なりはすべて他分野からの援用(かりもの)であり、これらの総体が今の考古学であり、除外して考えることはできない。よって、以下には賛同できない。

>他分野の研究と関わりを持たざるを得ない
>他分野の成果に依拠あるいは共同研究などの協力を本質的に必要とする

必須のものを忘れていないか。民俗学、民族学、文献史料、社会学。

>実際の研究では、そうしたことを意識しないで、・・・
>しかし、それは多くの場合、これまでに蓄えた他分野の知識を動員して研究を行っているにすぎないのである。

意識しないでできることがあるのか、本当に動員して研究を行っているのか。意識せず動員して行っているのならば非常に望ましい、本来のあり方である。分類学、型式学など根幹をなす部分については意識なしに使用しているであろうが、上記に上げられた分野に動員というより「良い所取り」の研究が多い印象がある。

>考古学を志す者は様々な分野の成果を摂取することが望ましいし、また求められる。少なくとも自らの研究テーマに関する分野成果はできるだけ取り入れる必要がある。

望ましいではなく求められる、できるだけでなく必ずである。

>近年の研究をみれば隣接分野の成果を積極的に取り入れた研究が多くなってきている。

ここで、「他分野」から「隣接分野」に語句が変わり、次項目に移るために変更したものと思われるが違和感を受けた。他分野と隣接分野とは根本的に意味が変わってしまう。

様々な知識の総体として研究が進んでいるならば望ましいことであるが、先述のように「良い所取り」の印象は拭えない。これは、考古学だけでなく、文献を主体として研究する古代史や、歴史地理学、文献史学の分野でもいえる。

隣接分野の研究と考古学の関わり

>各種の分析結果や研究結果が掲載されることが珍しくなくなった。

多くなったのは確かであるが、全ての報告書に掲載されるようになった訳ではなく、まだ希少な例に含まれる。原因者負担である埋蔵文化財発掘調査において、現地調査、室内遺物調査、報告書刊行費用以外を確保する事は難しい。費用をかけずに実施、報告する方法もあるものの、なかなか困難である。

>そのもっとも問題な点は、結果を鵜呑みにすることだ。
>そうした経過の検討を抜きにして、結果のみをとりあげても精度の高い研究を行うことはできない。

まったくそのとおり。

ただ、報告書の紙幅の関係で計測データなど基本データがなく、グラフと考察、結論しかないものがよく見かけるが、こうなると検討のしようがない。このようなことは無いように願いたい。(元の分析報告に測定データがないものもあるのかもしれないが。)

自分でやってみよう

>土器研究を志す者が、土器を全く観察せずに発掘調査報告書に記載された実測図だけを資料にして研究を行うことはまず考えられない。

近年、編年研究等で、現物を確認せずに行っているものが良くあるようである。

行政職に身を置く者による研究の場合、資料実見のために頻繁に有給休暇を取る訳にはいかず、物理的に無理という問題もある。対象範囲が広くなればなるほどこの傾向は強い。また、報告されているものの、保管スペースの問題ですぐには出せないというところもあり、報告書に頼らざるを得ない部分もある。(保管遺物量が多く、作業員なりを動員して収納箱を移動しないと出せないというところも多い。)

報告書において精度の高い図面が掲載され、法量、出土状況など基本データが提示されているものについては、報告書からの資料化は可であろう。ただ、これらのデータを引き出せないものが多い現状では、やはり現物にあたることは必要である。
(ちょっと脱線しました・・・。)

>報告結果だけを用いて研究を行うだけでなく、必要とあらば、自ら観察や分析を行うべき

まったくそのとおり。

ただ、観察できるのもは可としても、分析まではどうであろうか。花粉分析や蛍光X線分析、C14分析、年輪分析など、装置と技術が必要なものまでは無理ではないか。また、業務に追われ、少ない個人の時間を割いて研究を行う行政職の身分にあるものにここまで求めることは不可能では。

分析までは無理としても、結論の元になったデータの検証は最低限必要である。

>隣接分野とくに理科系に属する分野は、敷居が高いので、そうした方面に手を伸ばすことはためらわれる場合が多い。

敷居がどこに存在するのか、私は感じたことはない。

>高いと思われる関連諸分野の敷居は、その努力次第で乗り越えることができると思う。

ここでまた語句が変わる、「関連諸分野」。

敷居は結局考古学側が作っているように思われる。「文学部出身、数字の羅列=思考停止」の状況が敷居の原因と考えられる。

このことは文化財のなかでもいえる。仏像、古文書、建築、民俗、天然記念物はわからない。専門研究者にまかせよう、となっているのではないだろうか。「わからないから敬遠」、「敷居を作る」になっているのでは。専門研究者にアドバイスを受けながら、どんどん調査を行えばいいのであって、どこにも敷居は存在しない。(文化財保護審議会委員はそのために委嘱しているのである。)

>考古学者自身が隣接分野の知識を習得することで、より豊かで精度の高い研究ができると思われる。
>隣接分野の研究者と共同研究を行う場合でも、相手の研究を良く知れば、よりよい成果を得ることができると考えられる。

ここでまた語句が変わる。

まったくそのとおり。できるのであり、得られるのであるから、行うべき。

>隣の人が何をしているのか、とても気になるところである。見ているだけでなく、隣の作業を自分でやってみることは、自らの研究を豊かにする上でとても有効なことだと考える。

しなければならない。

文章の内容からすると研究会からの依頼で、学生、一般向けに執筆されたようであるが、中堅研究者である執筆者の立場なら、もう少し踏み込んだ内容を盛り込めたのではないか。盛り込んで欲しいと感じた。





座談会 これからの埋蔵文化財行政を考える(5)
−自治体合併と埋蔵文化財行政−

司会を含め市村教育委員会所属の方を中心とした7名による座談会。ただ、「埋蔵文化財行政」となっているところに違和感がある。市町村自治体で埋蔵文化財行政だけを行っている所は少数若しくはほとんどないであろうし、行政とする以上は「文化財保護行政」とすべきと考える。

ここでは、内容を整理し、現状と課題、合併メリットにわけて記述する。

現状と課題

・府中市教育委員会

隣町との合併協議。相手先に担当者おらず、協議すすまず。

・合併後「北社市」

合併7町村のさまざまな格差をどう埋めるかが課題。
現在、合併について協議中であるが、現場のかかえている問題点等が上層部に伝わらない。そのほか協議内容について職員に周知されていない。
7町村で正規文化財専門職員9名。資料館8、埋蔵文化財センター。資料館の企画、運用、来館者数の格差大きい。
各町村での開発の内容がことなっていた。開発協議の仕方も微妙にことなっている。

・南アルプス市

合併前に5名いた担当者が3名に。大規模開発が続いている。 合併前の協議で十分なすりあわせができなかっこともあり、財政的にはむしろ厳しくなっている。整理室の統合もできていない状況。
協議段階では係長1、専門職4名で合意したにも関わらす、他課とのバランスで上記の数になる。担当者が減ったこと以上に市域が広くなり大変であることの意識が強い。
担当者の年齢が接近しており、世代交代が問題。
各町村で文化財分布図の精度、遺跡認定の考え方微妙に異なっていた点が明らかになった。
合併翌日に開発関係各部署をまわり、埋蔵文化財の取り扱いについて説明。職員が一気に増加し、開発の情報が入りにくくなった。
開発が増加傾向にあり、高度成長期と同じような状態になるのではと予想。

・つくば市

国主導で合併した市であり、今回の地方行政改革とは関係ない。

財政規模が大きくなったことにより、国史跡への国庫補助事業を含め大規模な事業を行えるようになる。合併当初とくらべ現状は文化財保護費が10倍になる。国史跡保存整備が順調にすすむ。埋蔵文化財包蔵地数増加。旧町村指定文化財はそのまま市指定に移行。現在新規指定なし。
予算の配分や旧町村役場を支所として使うことの市民サービスの低下。
合併前にほとんど文化財担当者がいなかったこともあるが、現状は事務職2名、専門職3名と市域面積の割に心許ない陣容。

・伊勢原市・・・合併はなく。現状のまま。

・龍野市・・・市の状況についての言及なし。

さまざまな状況があり、非常に参考となった。

>埋蔵文化財はより広いエリアを担当し、さらにそれ以外の分野にわたって仕事が増えて、責任は重くなる気がします。
>埋蔵文化財を発掘しながら、それ以外の文化財も担当するのは、ちょっと無理な話です。

この発言をした方々は非常に恵まれた環境にあるのか。行政に身を置く以上、文化財保護法、条例に則して全ての文化財を担当するのは責務である。現状、市町村で全ての文化財を担当している人が多数存在する。もともと文化財担当者がおらず、急な開発行為に対応するため嘱託員を採用し、日々埋蔵文化財調査を担当しながら、その他の文化財保護業務に当たっている人もいまだに存在しているのである。

>合併することで、担当者が複数になるのであらば、新市が誕生したときに文化財全般の体制を確立する機会でもある。
>発掘調査の行政直営方式を考え直す方向も視野に入れざるをえない。

現状動いている合併事務協議会でも十分なすりあわせができていないこと、すでに合併したところでは減員になっていることが先に述べられている。よって、合併ありきの話し合いでは文化財部局の確立することはできないであろう。

直営見直しについては、平成10年の文化庁通達がでており、専門業者の積極的な活用が宣言されている。また、平成12年文化財保護法改正に伴って都道府県で制定された「埋蔵文化財発掘調査基準」の中に盛り込まれている。

合併のメリット

>1、財政規模が大きくなったことから、大規模な事業が可能になる。史跡整備、史跡指定など。
>2、担当者がいなかった町村では文化財行政ができるようになる。
>3、例規、法令を見直すいい機会。
>4、他部局との連携、これを考え直す時期にきている。
>5、それぞれの自治体で担当者のおかれている状況も違えば、考え方も違う。どうして調査するのか、だれのために調査するのか、税金を使う意味は何だと考える、意識改革のよい機会。

1、今回、合併により文化財保護費が増額された市と全く増えなかった市の2例が紹介されており、今回の合併については、合併後の財政状況、特例債の運用如何ではどうなるか不透明。ただ、赤字を抱えて新規事業が全く受け入れられない現状からすると、新規事業化のよいチャンスであることは間違いなし。

2、まったくそのとおり。文化財保護課なりができればなおよし。

3、例規、条例などについては見直す機会であるが、議会承認等の問題があり、施行までには数年の期間を要す。新市に向け新例規、条例、規則が必要であるので、基本的な内容については合併の流れの中で整備しつつ、内規や要綱など、事務レベルの取り決めを固めることが先決であろう。(法令の見直しは言葉のあやであろう。これは国会での話。)

4、これまでに何度も文化庁から通達がでている。開発部局との連絡は密にし、民間開発についても開発指導担当課と連携を必要とされている。私が属する市では昭和60年頃、開発指導担当課との連携が確立しており、ほぼすべての開発許可、建築確認を書類審査している。バブル期以前にこの関係が成立していなければ、あれだけの乱開発に対応できなかったであろう。また、平成13年より、建築確認申請における埋蔵文化財の意見書きも行っている(他府県についての情報は持ち合わせないが、大阪府下ではすべての市町村で)。

5、自治体によって微妙に異なる開発対応が、広域で統一できるよい機会であることは確かである。ただ、この点は合併がなくとも常に考えなければならない点であり、市民の利益を守りながら、いかに文化財を守っていくのかを考えるのは、専門職として採用されている行政職員としての責務である。文化財のことを知っている、発掘調査ができるだけでは単なる専門家であり、専門職、行政職ではない。

最後に椎名氏がまとめたように、今回紹介された例は恵まれた例である。ただ、以下の部分については賛同できない。

>遺跡を掘るだけに集中してきた埋蔵文化財行政を総合化する一つの必然性とチャンスであるという捉え方をする必要がある。
掘ることだけに集中してきたというよりも、埋蔵文化財だけに特化してきた文化財保護行政自身が問題である。バブル経済崩壊後、埋蔵文化財に特化していることが周知のこととなり、各地で議論が進んでいるものと考えていた。しかし、今回のタイトルにもあるように、今だに「埋蔵文化財行政」という言葉がでることに、失望を感じる(言葉だけでなく認識も)。文化財保護法では第4章として「埋蔵文化財」が独立しているものの、特別な存在ではなく、文化財の中の一つにすぎない。この視点に立たない限り、文化財保護自体が成り立たず、埋蔵文化財保護どころの話では無くなってしまう。市町村合併という課題から、まさに今、文化財保護行政が危機をむかえている。

今回、合併の具体的な内容が紹介されたことは非常に評価できる。第8回埋蔵埋蔵文化財関係職員交流会(平成14年)、文化庁主催の埋蔵文化財担当者等講習会(平成15年)でも、いくつかの市町村合併の実状が報告されているが、具体的な内容はそれほど明らかになっていないと考える。文化庁においても職員体制なりを調査するであろうが事後と考えられる。座談会として行政的問題を連載し、今回テーマとして取り上げる関連から、考古学研究会において実状を調査、掲載されることを強く希望する。(本来は自治労連、自治労などが調査、集計すべきものであろうが。)

以上、独善的と思われるが、これらの文章に接した感想である。総合化という意味では、この2つの話題は私の中でリンクしているので、取り上げた次第である。ご批判、ご意見いただければ幸いである。

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