うだ話41


     うだ話41  「これからの埋蔵文化財行政」に対するコメント

岸本道昭「これからの埋蔵文化財行政」
  考古学研究会2004『文化の多様性と比較考古学』考古学研究50周年記念論文集

内容については様々意見があるものの、それらをすべて記述すると膨大になるため、以下はポイントのみにする。

・タイトル「これからの埋蔵文化財行政」
うだ話でも指摘しているとおり、埋蔵文化財だけを取り出して、云々することはもはや時代錯誤である。埋蔵文化財だけに突出させた文化財保護行政を反省し、文化財全般をみた上での行政を展開しないことには、自治体としての責務が果たせない。

これまで、何の後ろ盾もなく、簡便な文化財保護法によって、努力に努力を重ねて、埋蔵文化財保護をされてきた先達には敬意を表すが、現状、それだけでは市民ニーズに応えられない。

・行政内研究者
まず、単純に考えて、公立博物館・研究所に所属し、研究職辞令を受けている人間は「行政内研究者」である。しかし、文化財保護を担当する職員のほとんどが、事務吏員、技術吏員として、一般行政職の身分である。少し進んで、要綱等によって専門職辞令が発令されている場合もある。だが、元の身分は事務吏員、技術吏員である。よって、「行政内研究者」は基本的に法制度、組織的には存在しない。

「研究者」に対する一般のイメージは、「好きなことができていいね〜!」、「生活にとって必要ないことを突き詰めて、何になるの?」。これは極端な話であるが、基本イメージとしては逸脱はしていない。

このイメージのままで「行政内研究者」ということを見ると、
組織からは、
・個人的に好きなことをさせるために、採用した訳ではない。
市民からは、
・個人で好きなことをするのなら、税金泥棒だ!
となりかねない。これもまた極端な話だが。

例を出してみよう。一級建築士。民間で事務所に所属したり、自から事務所を開いて、様々な建築を行う。巨大なオブジェ的な建物を建て、「建築家」と呼ばれる。同じ資格をもっていて、行政に採用された場合、巨大なオブジェを設計することも建築することもない。決して「建築家」と呼ばれることはない。同じ「一級建築士」であり、同じ資質を備えながら、求められる職務によって、その内容も位置付けも変わるのである。行政内の一級建築士はその職にある限り、「建築家」にはなり得ない。「行政内建築家」は存在しない。オブジェを建設することを求められているのではなく、公共施設の適切な計画、基礎設計、建設管理を求められているからである。

文化財担当者も同じことが言える。組織からも市民からも研究成果を求められている訳ではないのである。文化財保護法の適切な執行、それだけを求められているのである。 よって職務においては、「研究者」であってはいけないのである。文化財のことを熟知し、様々な法、規則、条例、要綱を熟知し、文化財保護と市民の財産他を保護することを両立させる、調整をとることが、行政に身を置く文化財担当者の任務である。

組織、身分においては上記のとおりであるが、行政に身を置くならば、遺跡処理に徹せよとは言ってはいない。「文化財のことを熟知し」と書いたとおり、常に新しい情報は入手し、常に研鑽し、知識、技術的には研究者と変わらないものを持つ必要がある。担当する地域については研究者以上の知識を持たなければならない。調査したものを分析し、地域史の中に組み込む作業をしなければならない。そうでなければ文化財担当者としての職務は果たせない。研究は個人しての部分で行えば良いのであって、研究者としての資質を否定するものではない。

ただ、はっきりしなければいけないことは、行政の身分では「文化財担当者」、「専門職」であること、個人の部分では「研究者」であることを明確に分ける必要があると言うことである。行政内研究者であっては、組織の理解も、市民の理解も得られないのである。名称だけの違いでは無いかとの意見もあろう。しかし、社会のシステム、法体系が上記のようである限り、名称だけの問題ではすまされないのである。

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